僕たちの終末(機本伸司/ハルキ文庫)

 主人公の天文学者・神崎正は、一言で言うと「体温絶対零度な男」。太陽フレアの活性化による地球滅亡の切り札として「有人恒星間宇宙飛行」をぶち上げたにも関わらず、厄介な技術上の検討事項や交渉ごとは全て仲間に丸投げ。仕事上のパートナーである瀬川那由から「私、告白されちゃったんだ」(大意)ともうバレバレな誘いを受けているのにスルーしてしまう朴念仁ぶり。
 そんな男が最後の最後で熱さを見せます。ロケット発射には成功したものの、我田引水なパワーエリート達の妨害のせいで軌道が月面基地へ向いてしまい、衝突回避のため基地から発射された核ミサイルが迫る。およそ人のために小指一本動かしたことのない男が危機に際してここまで身を投げ打てるのか、と疑問は残るのですが、彼の奮闘で最良の結果が得られる結末は十分満足いくものでした。当初宇宙船へ乗り込むつもりでいながら最終的に下船した仲間達についても、その決意の背景を一人一人しっかり描いています。前作「メシアの処方箋」と比較すると、登場人物のドラマ性が厚みを増したというのが、率直な感想。
 このような人間ドラマが活きてくるのも、基本となる「有人恒星間宇宙飛行」の可能性を細かく追求しているからこそ。限られた空間で数十年にわたって宇宙飛行するためには、極力持ち込むモノを減らさなければならない。結果として宇宙船内の生活は、2千年間にわたって人類が獲得した諸々のものを捨て去った弥生時代と同水準になる、という結論は、これまでのSFが無視してきた「現実」を身も蓋もなく見据えたように思えて面白かったです。思考実験を楽しみたい方にもおすすめ。