花園のエミリー 鉄球姫エミリー第三幕(八薙玉造/スーパーダッシュ文庫)

ISBN:9784086304313
 改めてここの作中世界は戦国時代だと納得。そう理解すると、王姉弟への貴族達の態度が割合ぞんざいなのも、国境での争いが絶えないのも、巧く説明できるように思います。
 エミリーが政敵ジョゼフに示した姿勢は、まさに秀吉が得意にしたという「赤心を推して人の腹中に置く」交渉術そのもの。それが徐々にジョゼフや諸臣の心を動かし、乱れた国をまとめようとする一つの大きな流れを作り出してゆくところは迫力があります。無益な争いで死んでいった臣下の遺族を前にして言葉が詰まるエミリーや、病弱な体を押して国難にあたり皆を一つにまとめようとするガスパールを見ていると、この子ら成長したらいい主君になるだろうなと。グレンのパンチを受け効いているのに強がってみせる陰謀親父ジョゼフもいい味を出していました。
 …そんな風にいい感じにさせられていたのに、最後の最後になって何この本能寺!次巻が気になって仕方がないじゃないですか。こんな風な物語の流れの緩急のつけ方を見ていると、完全に新人の域を脱したと思います。「国盗りファンタジー」(と自分勝手に呼んでいるジャンル。他に「烙印の紋章」とか「ミスマルカ」とか)の中では今一番の注目株。