いちばんうしろの大魔王 ACT3 水城正太郎/HJ文庫
あらすじ
膨大な魔力を持ちながらそれを制御するのが困難を極めるため、学園内で「魔王」候補として恐れられる紗伊阿九斗(さいあくと)。何とか参加の許しを得た臨海学校でも当然のように混乱に巻き込まれる。訪れた先は、阿九斗の一の乾分を自認するヒロシの実家がある孤島。「魔王」復活伝説を信じる頑迷な島民に取り囲まれたり、怪しい人物が夜間徘徊したりする。おまけに監視役のころねが、いかなる指令を受けたものか無表情のまま色仕掛けを阿九斗に仕掛けてくる。島に来てからのヒロシもめっきり塞ぎこんでいて変だ……。不穏さを孕みつつもお色気と熱いバトルを楽しめる学園ラブコメ。もちろん水着でのイベントあり!
ころねとヒロシ
これまでよりシリアスな成分やや多目ですかね。
今回スポットが当たったのは、ころねとヒロシ。ころねが阿九斗に迫ったのは、阿九斗を篭絡しその力を支配下に置こうとする政府の思惑が第一原因ですが、指示に対する従順さところね自身の阿九斗への思いの間で揺れる彼女の姿に読んでいる方もたまらない気持ちにさせられます。
意外だったのが、単なる端役に思われたヒロシの内に抱える事情が明らかにされたことです。島の人達の自分に対する低評価と打算に対する反発。それ故に島に伝わっている「魔王」を倒す「勇者」伝説を否定しつつも、魔力への欲求は捨てられず阿九斗にあこがれ続けてきたこと。そんな矛盾を抱えた自分が、魔獣襲来をきっかけに先祖伝来の「勇者」へと変身する。折角の力を得たものの今度はあこがれていた筈の阿九斗への対抗心が芽生え、伝説の再来に怯えることになる……。
自己の矛盾点に悩み、それと葛藤し続ける思春期の描写をそれぞれの登場人物ごとに巧みになしえているところが、このシリーズの魅力の1つではないでしょうか。
阿九斗の立場
乗り越えていかねばならない矛盾は、最強の力を持つ阿九斗にも存在します。頭が固く小ズルイが弱者であるが故に災厄に怯える島民達を説得することに失敗する阿九斗。自分自身の正義を貫くことに固執する余りそれが他者に対する不寛容となって表れている、とクラスメイトの絢子にたしなめられてさえいます。主人公を最強の座に据えつつその地位を絶対視せず、彼自身も成長しなければならない存在としている点にも魅力を感じます。