処刑御史 荒山徹/幻冬舎文庫

 1857年冬、三浦半島沖で16歳の伊藤俊輔(のちの博文)は全裸の美少女に襲われる。彼女は、後の朝鮮統監を若い時分に暗殺し日本による朝鮮支配を歴史上ないものにするために、51年後の朝鮮からタイムスリップして来た暗殺者集団「処刑御史」の一人だった……。魔術、剣術、銃に長けた朝鮮人暗殺者集団と若き伊藤博文そして彼を守ろうとするミステリアスな朝鮮人美女・雪蓮との間で驚天動地の戦いの幕が切って落とされます。
 評判には聞いていましたが、魔術による戦い方のぶっ飛んだ加減に、終始笑いずめでした。落雷で帯電した大百足、目からサーチライトを発して俊輔達を探す仏像、男をコントロールにするのにヒロインが用いる方法等々、次々と繰り出される大技に頁をめくる手が止まることがありません。まさしくノンストップアクション。タイムトラベルにつきもののタイムパラドックスについても、かなり強引な方法ですが回収しています。エロの成分もほどほどにあります。
 しかし、将来日本が朝鮮に対して成すことを聞かされて義憤に燃える俊輔やそんな彼にただただ尽くす雪蓮は、日本人にとって(そして雪蓮は男にとって)都合のいい造型なんでしょうな。51年前の自国にきて内省的になる朝鮮人暗殺者の姿にもそんなことを感じます。
 現実の伊藤博文や彼と意を通じた知日派に対する冷静な歴史的評価は必要でしょうが、それは本書への評価の外側で行うことではないかと思います。

処刑御使 (幻冬舎文庫)

処刑御使 (幻冬舎文庫)