地球温暖化は止まらない S・フレッド・シンガー、デニス・T・エイヴァリー/東洋経済新報社

 同じ訳者の「地球と一緒に頭も冷やせ!」(ソフトバンククリエイティブ)が、人間の活動による温暖化が起こっているのを認めたうえでCO2削減が余りに経済的に割りが合わないことを説明するのに対し、こちらは科学的見地に基づき真っ向からCO2等温室効果ガス増加による温暖化を否定する。
 著者等による「温暖化」現象の説明はこうだ。
 ・CO2増加は温暖化の先行指標ではない。現在より産業化が緩やかだった19世紀から1940年代において温暖化が進行し、大気へのCO2の人為的放出が本格化し出した1950〜70年代においてむしろ気候は寒冷化したことを温室効果ガス説では説明できない。
 ・過去100万年にわたって地球の気候は大きくは1,500年周期で温暖化/寒冷化を繰り返してきた。これについては極地や海底から取り出された堆積物の調査、世界各地の歴史文献、年輪・花粉等の植物痕跡などあらゆる証拠が出揃っている。最近の寒冷期は14世紀から19世紀半ばまでの「小氷河期」であって、21世紀初頭現在はそこから緩やかに回復する途上にある。「小氷河期」直前の「中世温暖期」(10〜13世紀)等、現代よりも温暖な時期が度々あったことを忘れてはならない。
 ・このような気候の1,500年周期は、地球への太陽輻射の増減周期により説明がつく。
 論点とそれに対する結論は冒頭に示され、続く各章はそれらの論証に当てられているので少々うざったいのを我慢すれば論旨は飲み込み易い。

虚言を弄する“科学者”たち

 本書で注目されるのは、温暖化の原因やそれによる被害について、自説を守るために政治的に振る舞い、時にはありえないデータすらでっち上げる科学者の存在であろう。「気候1500年周期」を否定するために、歴史時代の気温をほぼ一定とし近年に入って急激に上昇するあたかも「ホッケーステック」のような形状のグラフを“捏造”したマン。温暖化による種の絶滅を主張する生物学者の中には以前発表したものと矛盾した発表をして平気な者もいる(クリス・D・トーマス)。気象学者に続いて海洋学者の中からも、温暖化に起因する海流の衰退による“寒冷化”(!)の危機に対応するのだとして、自分達に対する科研費の増加を要求する者も出てくる始末。
 こういった“科学者”による研究結果が、世の“常識”や気分に適うゆえに、マスコミや国際機関(IPCCなど)に積極的に取り上げられ、真っ当な研究結果よりはるかに注目される危険性に著者らは注意を促す。

あてにならないコンピュータ予測

 “科学者”が愚にもつかぬ予測データを量産し続ける背景として、本書はコンピュータによる分析が容易になり“机上”で予測モデルを作ることがはやるようになったことに原因の一端があるとしている。
 ただこれらのモデルは過去に実際にあった気候変動を全く説明できておらず、将来予測についても全くあてにならないとする。1週間後の株価予測や気候予測が全く読めない現状から、さらに長期で多数の要素を扱わねばならない気候予測がいかに困難なものであるか直感的にも理解できるのではないだろうか(将来予測のあてのならなさを豊富な例でもって紹介した本に「予測ビジネスで儲ける人びと―全ての予測は予測はずれで終わる」(ダイヤモンド社)がある。)。実際過去に起こったことであり豊富な根拠に裏付けられた「1500年周期」説とどちらが根拠あるだろうか、と著者達は問いかけている。
 この他、「温暖化」の得損やそれによる被害の実情等についても触れられており、かなりの部分が「地球と一緒に頭も冷やせ!」と重なる。ただ、「CO2の増加が植物の繁茂を促すので、農業生産にとってはプラスである」という説明は初見であり思わず膝を打った。

地球温暖化は止まらない

地球温暖化は止まらない