なぜ、アメリカは崩壊に向かうのか  チャールズ・R・モリス/日本経済新聞出版社

 サブプライム問題に端を発した米国の金融危機を信用バブルと断定、その原因についてここ四半世紀間米国主導してきた市場を万能視する保守主義的思潮に求めるものです。
 長年、金融界に身を置いていた著者らしく、あらゆる金融商品証券化しそれに高い格付けを与えて高値で売り抜けるカラクリの説明やそれが破綻してゆくメカニズムについては説得力があります。本書では第3章、第4章それに第6章がその著述に当てられています。
 しかし、それ以外の所は印象論を出るものではないというのが感想です。例えば、第5章で産油国や中露という「民主的とは言い難い」国々にドル資産が集中していることの危険性を説きますが、それによって具体的にどのような危険が生じるのかについては述べていません。また同じ章でドル下落によりそれら新興経済国の対外資産のドル離れによってドルが基軸通貨の地位を失う可能性を指摘していますが、これなどは特定国へのドル資産集中の指摘とどのような整合性を持つのでしょうか。それらの国々のドル資産が他国通貨に振り替えられるという点では米国にとって「歓迎」すべき事態ということになるのではないでしょうか。
 最大の疑問は、信用バブルを「放置」、それを防止するための金融引締の措置をとらなかったとしてグリーンスパンFRB前議長を執拗に批判している点です。バブル潰しを怠って苦境に陥った例として日本を著者はあげていますが、事実は逆に三重野総裁の下で日銀がバブル潰しのため金融引締を強行、景気悪化が明白になったにも関わらずそれを放置したことが平成不況を長引かしたのではなかったでしょうか*1。批判されるべきは、己が対処すべき問題でないことに金融政策を当てはめ本来己が対処すべき問題に金融政策を当てはめることを怠った日銀である、という私の理解は誤りでしょうか。なお、バーナンキ現議長も中銀が資産価格バブルを判断する基準を持たず、(日銀がとった)資産価格に影響を与えるような大幅な金融引締めは景気に深甚な影響を与えることなどを理由*2に資産バブルに対し金融政策を用いることを否定、バブルが弾けた後の金融緩和に専ら力を注ぐべきことを力説しています。グ前議長が2001年にとった果敢な行動やサブプライム問題が表面化して以降のバ議長の方針もその流れに則っていることは言うまでもないでしょう。
 グラス=スティーガル法の復活等古色蒼然とした規制強化を訴えたりしている等、信用バブルに対する処方箋については見るべき論述はありません。ケインジアン=「大きな政府」志向のリベラリストシカゴ学派=「小さな政府」を好む保守主義者と、経済学派を唐竹で割ったように対立する政治的立場へと割り振ってしまう点もなんだかなぁという感じです。

なぜ、アメリカ経済は崩壊に向かうのか―信用バブルという怪物

なぜ、アメリカ経済は崩壊に向かうのか―信用バブルという怪物