日本経済再生の処方箋 月刊現代11月号/講談社

 「日刊現代」今日発売(Economics Lovers)
 日本経済再生の処方箋(月刊現代11月号)(Econviews-hatena ver.∞)
 発売日に購入、読了。身近な物価から対外関係までの主要論点を短時間で概観できるのがありがたい。一面的かつ皮相的に経済問題を捉えがちなマスコミの論調に棹をさすアンカー役が期待できます。
 各稿の共通項を次のようにまとめてみました。
 (1)非正規労働者の増加、タクシー運転手の賃金低下、餃子問題に端を発する中国産食品への忌避等など巷で取り上げられる社会問題の真因を探ると’90年代から続く長期のデフレであることが観察できる(田中、若田部、梶谷論文)。最近「インフレ」と報道される現象は、原油を始めとする一次産品価格の高騰に伴うもので、日本は依然デフレでありかつ再び深刻化しかねない瀬戸際にある(安達論文)。
 (2)これらの問題を解決しようとして例えば規制緩和を格差拡大の敵役視するような感覚的・情緒的な政策を選択してはならない。それは社会全体の厚生をむしろ害する可能性がある(田中、若田部論文)。また、先に見たように景気循環的要因によって引き起こされた現象であるので、デフレを食い止める為の積極的な経済政策、わけても金融緩和が根本療法となる(田中、安達論文)。
 (3)海外発の経済事象を対岸視したり警戒心をもって捉えてはならない。新興国への技術支援や最貧国に対する適正な援助など日本が世界に対して貢献できる余地は意外に大きいし、またそれはオイルマネーや米国の優れた経営手法を日本に還元する等、使い古された表現だが「WIN−WIN」の関係を築くことにつながる(上野、門倉、梶谷、藤田論文)。
 (4)社会の厚生を最適にする政策を選択する/できるようにするには、感覚的・情緒的な政策に惑わされない確かな知識を持った政治家を選挙で選ばねばならない。それは我々の民主主義の成熟度がどの程度なのかという問題に直結する(権丈論文)。日本より進んでいるように喧伝されて来た米国でも内情はお寒いものだ(上野論文)。
 以上の項目にまとめきれなかった論考(「社会保障を一般会計から完全分離せよ」(上村論文)、「時代のニーズにあわせた職業能力の蓄積のために『ジョブカード』の導入を」(原論文))もありますが、主として制度面から補完するもので上記項目に矛盾する内容ではないと思います。それにしても、米国のリセッション対応を「小出し」かつ「後追い」と結論づけた上野先生は本当にすごい。先月29日の米下院での安定化法案否決をまるで見越していたようなこのタイミングの良さ。
 一人でも多くの有権者、政治家に手を取ってそして手元において読んでいただきたい特集です。

月刊 現代 2008年 11月号 [雑誌]

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